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ユネスコ世界無形文化遺産である宮大工の技術

 2020年12月、ユネスコは「伝統建築工匠の技」を無形文化遺産に登録しました。これは、ヒノキの皮や茅を用いた屋根葺き、土や漆喰による日本壁の製作、漆などの原材料を採取する技術などのことを指します。すべて、貴重な木造建造物の保護や修理に欠かせない技術です。国の「選定保存技術」として、日本の宮大工や左官職人らが守り継承してきた技術が、世界に認められたわけですね。

 実は、宮大工は世界最古の組織と言われています。はるか飛鳥時代、聖徳太子の生きていた578年に創業した宮大工の会社から始まり1400年以上にわたり受け継がれてきました。国内企業の平均寿命は約30年と言われている現代で、これは驚異的な数字です。

 宮大工の特筆すべきポイントは、その深い歴史だけでなく、長年の経験によって培われた職人たちのスキルにあります。宮大工に必要な技術を習得し、一人前と呼ばれる職人になるまでには、少なくとも10年以上の歳月が必要といわれています。神社や仏閣の大きな特徴には、釘などの金具をほとんど使わない「木組み工法」が使われていることがあります。木はたわみやすい素材であり、釘などの補強金具を使うことで負荷がかかって傷んでしまうことがあるため、寺社仏閣はほぼすべてが木造建築物です。つまり宮大工は、木材だけで建築物を作る、大工の中でもさらに専門性の高い職種なのです。

 「木組み」とは、木自体に切り込みなどを施し、はめ合わせていくことで、木と木をがっしり組み上げていく技術です。釘や金物を殆ど使わず、木の組み合わせやかみ合わせによって建物の骨組みを作り、支える構造を作り上げます。さらに、宮大工は木材の加工を全て「手刻み」で行います。木材には適材適所があり、堅さやしなり方など、木の若さや種類によってひとつひとつ違います。その特徴を見極めて、建築物への適切な配置を考えることは、木造建築においての最重要事項です。また、木材を組み合わせた際の力のかかり方も考えなければならないため、物理学的な知識や経験も要求されます。木の生育常態やそれぞれの木の性質を読み、どういう用途に適すのかを決定し、宮大工は「手刻み」していきます。

 そして、「継手」「仕口」と呼ばれる技術を用いて、材と材を強固に繫ぎ合わせ、地震の多い日本でも崩壊しない丈夫な建物を作ります。

 「継手」とは、木材の長さが十分でない場合に、長さを継ぎ足すときに使われる技術です。パズルのように隙間なく木材同士を組み合わせなければならないため、知識はもちろんのこと、正確に材を削る職人の腕前も要求されます。宮大工が切り出し削った材は、繫ぎ目も殆ど分らないほどぴったりとはまり、まるで最初から1本の木材であったかのようにみえます。職人の経験とテクニックがそれを可能にするのです。

 「仕口」とは2つ以上の材をある角度に接合する技術で、土台と柱のつなぎ目、梁と桁のつなぎ目などそれぞれの材を組むときに使われます。経験や言い伝えによる宮大工の工匠間の秘伝であったとされており、難易度の高い技術です。

 このような宮大工の優れた技術は、現在の建築工学から見ても非常にハイレベルなものです。素材の特性を最大限に活かし、何十年、何百年先までその姿を保つことができるものづくりをすること。またその技術も、何代にも引き継がれ、修繕や補修を重ねながら、風化や災害にも負けないよう建物を保護していくこと。

 サステナビリティが声高に叫ばれている今、世界最古の事業である宮大工たちの仕事ぶりに目を向けると、現差にも通じる持続可能な環境づくりやまちづくりのヒントが隠れているような気がしませんか。

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