「堂塔の建立には木を買わず、山を買え」 ―― 一つの山の木で、一つの堂や塔を造るべし。吉野の木、木曽の木と混ぜて使ってはいけない。木は土質によって、性質が異なるからだ。同じ環境の木で組んでいくのが適切であるとの口伝だ。しかも一本一本のヒノキの癖を見抜き、適材適所に生かすのが宮大工の技の原点。気が遠くなる作業を宮大工は普通にやっている。
木はいつ切り出したらよいのか ―― その答えは秋だ。なぜなら、冬が近づくと、冬を越すための準備をするために木は水をあまり吸わなくなる。木に含まれている水が少ないから秋に切った木は腐りにくいというわけだ。逆に春先の木はどんどん水を吸い上げている時期なので、建築に使うには都合が悪い。 吉野は粘りがあり、木曽は地肌が美しいが柔らかい、など土質による基本的な材木の性質を知っておくことも大切。台湾の木は冷たいと考えている宮大工が多いようだ。