宮大工の一番重要な目線は、お宮さんやお寺を造るという心構えになる。神や仏は何も言わないが人々が頼り安心しよりどころとする場所だから、そういった「心のよりどころを造る」思いを大切にしている。ここに宮大工の高い精神性がある。
神道や仏教の詳しいことは分からなくても、概念的につかんでおかないといけないことも鉄則のひとつ。例えば、法隆寺は剛健の象徴だが、仏教が入ってきたばかりの頃、信仰的というより大陸の文化に負けまいとする気持ちが感じとれる、などの口伝的な意味合いも持つ歴史は十分に知っておく必要がある。
一方で、薬師寺は、繊細の象徴。天武天皇が持統天皇の病気の平癒を願って伽藍を造られたことから始まっているとされ、信仰が中心の寺となっていることも重要な視点だ。
法隆寺棟梁でも毎日仕事があるわけではなく、報酬も日当が基本。昔は、仕事がない時は、農業をして生計を立てていたようだが、宮大工のプライドからか、普通の大工の仕事はしない宮大工が多かったことも、宮大工の謙虚さや滅私奉公の精神を語るに相応しいエピソードだ。