宮大工(堂宮大工)の技術の見どころと言えば、やはり屋根形や軒先曲線、妻の形などです。その他は、斗供、垂木が平行垂木か扇垂木かなどがあります。構造では、木組みです。
木組みは、表面上では確認できないので、どうしても作っている時にしか見ることができません。部分的な解体修理や、新築での組立の時に見ることができたら運が良いですね。宮大工ツーリズムはこれを可能にする仕掛けです。
造作は、古い建物と新しい建物ではかなり差があります、神社やお寺で参拝などするだけではなかなか中や奥までは入れないので、数寄屋建築や邸宅などの造作を見る方が楽しいかもしれません。社寺建築は小さい物から大きなものまであり、大きい建物の材料の良さを見るのも一つの楽しみです。見どころを細かく言えば切りがないですが、大きく見ると上記の屋根の軒先部分が宮大工にとって技術の見せ所です。
順番に説明すると、まず社寺建築の屋根の種類には、本瓦葺、杮葺、檜皮葺き、銅板葺があります。また、屋根の形には、入母屋作、宝形作、寄棟屋根、切妻屋根、唐破風、千鳥破風があります。そこに、軒先の曲線の種類として、屋弛み、蓑甲などがあり、それらが社寺建築の優雅な形を作ります。様式としては、奈良時代の法隆寺に始まり、唐様(禅宗様)、大仏様、和様、折衷様式があります。
今まで見てきた神社で良かったところは、京都を外すと、滋賀の多賀大社が良かったです。屋根が檜皮葺きの造りになっており、拝殿から本殿まで神楽殿、幣殿などが重なり合っていて、複雑な形ですが見事に収まっています。
社寺建築は、いろんな角度から見る事が出来ますが、ここでは、屋根にスポットを当てて紹介してみましょう。
ご紹介したい建物ですが、歴史的建造物はもちろん、重要文化財、国宝などがあります。奈良は法隆寺、京都は清水寺、滋賀は園城寺など、京都、滋賀、奈良は見ていて楽しい歴史的建造物に多く出逢えます。もちろんその三県以外でもありますので、それを含めてご紹介します。
まずは、奈良の長弓寺です。不慮の事故で死んだ鳥見郷の豪族である小野真弓長弓(おののまゆみたけゆみ)を悼むため、聖武天皇が建てさせたと言われています。本堂は国宝に指定されています。
檜皮葺きの建物で、軒反りが大きいのが特徴です。隅の柱を廻りの柱より少し長くすることにより、反り始めの準備をする工夫がされています。こういった軒反りのための工夫を施した建物は、鎌倉時代の建物に多くみられます。隅の柱を伸ばすことで、その伸びた柱にとりつく部材に癖が付き、より高度な技術が必要になります。昔の宮大工は、どう見せたら綺麗に見えるのかを考え抜いていたのだなと感じます。
同じ年代ころの建物で、滋賀に西明寺(和様)というお寺があります。
こちらも檜皮葺で、隅の柱が伸びています。
次に、和歌山にある御影堂をご紹介いたします。
空海が開いた真言密教の聖地である高野山の壇上伽藍(だんじょうがらん)に建つ御影堂は、もともと空海(弘法大師)の持仏堂として、十大弟子のひとり、僧都(そうづ)が建立しました。後に、真如親王直筆の弘法大師御影像を奉安し、御影堂と名付けられました。屋根は、檜皮葺きの宝形作となっています。本堂、お堂などは入母屋根が多く、宝形の屋根が珍しいわけではないのですが、屋根勾配もゆるく、軒反りも穏やかです。宝形作と入母屋作ですが、見た目は全く違いますが、宝形作の延長に入母屋作があるととらえると、入母屋作を見た時に宝形作と重ねて見る事が出来ると曲線の見え方が繋がって見えます。
次にご紹介するのは、京都の西本願寺境内にある飛雲閣です。
金閣、銀閣にならぶ、京都三閣のひとつです。
一説には、豊臣秀吉が造営した聚楽第(じゅらくだい)の遺構ともいわれています。
桃山時代の代表的建築のひとつとして国宝に指定されており、普段は非公開ですが、たまに特別公開をしています。
屋根は、杮葺となっています。
三層の楼閣建築で、一層目の屋根は、唐破風の形の入母屋作、二層目三層目になるとむくり屋根が配置されています。
伝統的な建築は左右対称のものが多いですが、飛雲閣は徹底的に左右対称を避けて絶妙な形を作り出しています。非対称の美学がみてとれますね。
神奈川では、鎌倉にある円覚寺舎利殿が有名でしょう。
鎌倉で唯一の国宝建造物で、釈迦の歯(仏舎利)を納めていることからその名がついたと言われています。
日本最古の禅宗様(唐様)建築物です。
屋根は、杮葺の入母屋作です。
代表的な禅宗様の建物で、二層に見えますが裳階(もこし)と言われる庇で三手先の詰め組(斗供)で扇垂木と、軒先も隅に向けて大きく反り上がっているのが特徴です。
「大工とスズメは軒で泣く」という言葉がありますが、これだけ複雑な建物とあっても見事に納めており、当時の宮大工の技術がうかがえます。
最後に、同じく神奈川にある寒川神社をご紹介します。
厚木市と茅ヶ崎市に隣接する高座郡に位置し、1600年の長い歴史を持つ相模一宮です。全国で唯一、八方除(はっぽうよけ)の御神徳があると言われています。
入母屋作で銅板葺の屋根を持ちます。(昨今では主流ですが、杮葺檜皮葺きの疑似でした)
拝殿には、唐破風に千鳥破風と、宮大工の間ではフル装備とも言われている構造です。本殿は流れ作りで、境内に回廊に楼門、神社とお寺の入母屋などは形が若干異なります。また、蓑甲と呼ばれる部位の作りの見せ方が違ったりもします。
印象的なのは、回廊の門の軒先が全体に反っている部分です。この形は意外と他県の神社にも多い気がします。この建物は木曾檜で作られていて、材料を見ても素晴らしいです。
簡単にお話しすると、木曾檜は年輪が細かく、夏目冬目1mm前後であると言われています。
その1mmが1年育った大きさだと説明すると大体驚かれます。大体100年以上の木をふんだんに使って作られた贅沢な建物です。
余談ですが、祈祷をするために拝殿に入る前、腰長押という部材があり、その留先の仕事をみることができます。そこには蝶々栓が仕込んであり、当時たずさわった宮大工の心意気が伝わってきますね。