「用材は生育の方位のままに使え」は、
木は生える場所によってそれぞれの癖を持つので、それを見抜き、活かして組んでいくのが重要、という宮大工の有名な口伝だ。
山の南側に生えていた木はお堂の南側に。北側の木はお堂の北側に。長年太陽で訓練された木を太陽の当たるところに持ってくる。太陽が当たるので、南側の木は硬い。だから柱にする。軸部には南と東の木が向く。西に生えている木はおとなしいから造作材に向く、という塩梅で考えるのが基本。
飛鳥、白鳳、天平ぐらいまでの建築は正直にこのルールを守っている。飛鳥建築は千三百年ぐらいまでは解体しなくても大丈夫。自然に生えたまま、方位のままに使っている。室町以降の建築は、五百、六百年で解体修理する必要があるというのが通説となっている。
法隆寺はすべてヒノキ。日本書紀にはヒノキは瑞宮つまり宮殿をつくる材にするべし、と書かれており、スギやクスノキは、舟にするべしとある。材質が緻密で、粘りがあり、湿気に強く、虫害がない。総じて耐久力をもつのはヒノキが一番で、樹齢千年以上のヒノキが最もいいとされる。