世界最古の木造建築法隆寺。その中門と回廊にエンタシスの柱と呼ばれる、ギリシャのパルテノン神殿の作りに非常に似た構造の柱をみることができる。エンタシスとは円柱を下から上に補足した形状、あるいは、真ん中にふくらみをもたせた構造のことを言うが、世界最古の木造建築が世界最古の石造建築を参考にした「らしい」ことを知っておくと、悠久の歴史と人類の伝達力に驚かされ、法隆寺をみる建築ツーリズムにもさらなる深みがでるというものだ。
法隆寺の回廊のエンタシスは見事で、使われているヒノキも素晴らしい。根っこのところには継ぎ木で汲まれている。柱の上に斗肘(*ときょう)などの組み物がたくさんのるような場合には、丸柱の方が安定感が出る。三重塔や五重塔では丸柱が多い。軒を深くするため、組み物が多くなる。シンプルな組み物がのる場合には角柱の方が良いようだ。
実は飛鳥時代以降、エンタシスの柱の概念は廃れてしまった。理由の一つは、真ん中のふくらみのカーブを出すのがとてつもなく難しく手間がかかること。二つ目の理由は、それまでの土間だけだった頃には上から下まですべて見えており緩やかなふくらみの美しさを感じることができていたが、床ができるようになってせっかくの美しさが損なわれてしまったからだ、という説がある。
世界最古の木造建築のデザインが世界最古のギリシャのパルテノン神殿を参考にしていることだけでも、法隆寺をみる価値があるといえるのではないだろうか。
*斗肘(*ときょう)
雲斗、雲肘木など。組み物の一種。
飛鳥時代にしか見られない珍しい様式で、縦の部材と横の部材を結ぶという重要な役割を果たす。
斗と肘木をいくつも重ねることによって、軒を深くすることができる。軒が深くなれば、木造建築には大敵の雨を防ぐことができ、雨仕舞がよくなる、つまり雨漏れを防ぐことができる。釘は打たず、ダボ穴(小さい穴)とダボ(突起)で組み合わせる。これにより、湿気の変化で木が膨らんだり、縮んだりするのをうまく吸収して建物がゆがむのを防ぐ。地震や台風が来ても多少の揺れなら揺れを吸収する。ガチガチに固定するから強度が強くなるのではなく、組み合わせるだけにして少し動く余地を残しておくから強くなる。それが斗と肘木の考え方。しかもそれを優れた装飾にしたところに日本の宮大工技術のすばらしさがある。
斗肘のなかでも、その形や側面に彫った紋様が雲を思わせるものを雲斗や雲肘木という名前で呼ぶようになった。肘木の上には、棟木や桁などの横材をのせて組み合わせていくが、そのままでも素晴らしい装飾であることは覚えておきたい。